HIVとメンタルヘルス
HIV陽性者としてメンタルヘルスと
向き合うにあたり、
改善のためにできることや、
必要なサポートを得るための
準備をしておきましょう。
メンタルヘルスの不調について
メンタルヘルスの不調に直面すると、身体の病気と同じくらい、あるいはそれ以上の不調を感じる人が多くいます。この問題は自分自身では気づきにくいものです。
長期にわたり強いストレスがかかると、心の健康に影響がおよび、一般的にうつ病や不安、気分障害、パーソナリティ障害などの発症がよく見られます。
例えば、次のような症状があります。
-
うつ病
疲労感または緩慢な動作、集中力や性欲の低下、睡眠障害、罪悪感、無価値感、絶望感、食欲の低下または体重減少、過食 -
不安
落ち着きのなさ、恐怖感、常に過度な緊張を感じる、集中困難、イライラ -
睡眠障害
入眠障害や中途覚醒 (不眠症)
これらの症状は治療ができ、抗うつ薬と心理療法のどちらも効果的です。
自分自身では問題の徴候に気づきにくいため、診察時にはメンタルヘルスも診断してもらいましょう。すぐに結果がわかり、適切なサポートを受けられます。
メンタルヘルスの不調の評価
メンタルヘルスは次のような方法で評価されます。
- うつ病や不安と関連する症状の有無
-
睡眠状況の確認
一部の研究では、HIVと共に生きる人々は不眠症などの睡眠障害になりやすいと報告されているため -
HIV関連神経認知障害 (HAND) の確認
HANDによる集中力の低下やもの忘れ、頭痛、気分の変動、判断力の低下、意識障害、手足の筋力低下といったさまざまな症状が現れる場合があるため -
HIV治療薬を含む服用中の全てのお薬の見直し
一部のお薬がうつ病や睡眠障害と関連するため
メンタルヘルスの不調の要因
例えば、次のような要因があります。
-
環境要因
転職、金銭面の不安、人間関係の破綻、病気、死別など、生活の中で起こっている事象に対する直接的な反応 -
身体的要因
脳に対する物理的な影響や、家族歴、HIV感染下などでの長期にわたる生活が身体面に与える影響、および薬物療法の影響など
生活習慣が及ぼす影響
生活習慣の中には、メンタルヘルスに悪影響を与えるものがあります。例えば、不規則な生活リズムや過度の飲酒、喫煙、身体に悪影響をおよぼす薬物の使用などです。
生活習慣を改善するにはどのようにすればよいのか、主治医に相談してみましょう。こころの健康を保つために変えられることは、たくさんあります。
HIVとメンタルヘルスとの関係
HIVへの感染が及ぼす影響
HIV陽性かどうかにかかわらず、うつ病や不安などの問題は誰にでも起こり得ます。実際に、生涯を通じて4人に1人は心の病気にかかるともいわれています。*
しかし、HIVの感染により、脳が直接影響を受ける場合があります。影響が長期にわたると、時にHIV関連神経認知障害 (HIV-associated neurocognitive disorder;HAND) を発症します。HANDには、集中力の低下やもの忘れ、頭痛、気分変動、判断力の低下、意識障害、手足の筋力低下などさまざまな症状が含まれます。これらの検査の必要性について、主治医に相談してみましょう。
*川上憲人 (主任研究者) . こころの健康についての疫学調査に関する研究 総合研究報告書. 平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金 (こころの健康科学研究事業)
HIV感染者では一般集団より
精神障害と睡眠障害の有病率は高い
HIV感染者の併存疾患としての精神障害および睡眠障害の有病率に関する
システマティックレビュー
(英国で2000年以降の16の研究を含む
海外データ)*
- ① うつ病
- ② うつ病(男性同性愛者 サブグループ)
- ③ うつ病(75歳以上 サブグループ)
- ④ 不安障害
- ⑤ 不安障害(男性同性愛者 サブグループ)
- ⑥ うつ病あるいは不安障害
- ⑦ うつ病あるいは不安障害(白人サブグループ)
- ⑧ うつ病あるいは不安障害(黒人サブグループ)
- ⑨ 自殺念慮
- ⑩ 睡眠障害
大うつ病:17~47%(英国の平均有病率 2~5%)*
不安障害:22~49%(英国の平均有病率 4~5%)*
睡眠障害:61%(英国の平均有病率 10%)*
自殺念慮:31%(英国の平均有病率 1%)*
HIV感染者では薬物使用と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の有病率も高い**,***
*Chaponda M,et al.: Int J AIDS 2018;29(7): 704.
**Bing EG, et al.: Arch Gen Psychiatry 2001; 58(8): 721.
***Israelski DM, et al.: Aids Care 2007; 19(2):220.
HIVの治療が及ぼす影響
HIV感染者の中には、HIV治療薬の使用がメンタルヘルスの不調や睡眠障害のリスク増加と関連する人もいます。
うつ病や不安エピソードを伴うと治療計画の見直しが必要になる場合もあるため、日頃からあなたが感じていることや、どんなにささいで分からないこと、悩んでいることもためらわずに主治医に話すようにしましょう。
改善のためにできること
メンタルヘルスの不調を抱えながら日常を過ごすのは容易なことではありません。自分の気持ちを認め、支援が必要な場合には周囲に助けを求めることが重要です。
まずは日頃の生活習慣を次のように変えることで、症状の改善につながります。
- 適切な食生活を心がける
- 身体活動量を増やす
- アルコールやカフェインの摂取量を制限する
服用中の治療薬を見直したり、変更したりすることが役立つこともあるため、主治医に相談してみてください。次のようなアドバイスが得られるでしょう。
- メンタルヘルスの改善を目指した生活習慣の変更法
- 併用薬がどのようにメンタルヘルスに影響し、HIV治療薬の作用を妨げるのか (複数のお薬の併用による副作用など)
- 服用中のHIV治療薬が自分のメンタルヘルスに悪影響を与えているかどうか
その他にも、臨床心理士やソーシャルワーカーなど医療従事者とのコミュニケーションが効果的な場合があります。特にカウンセリングは症状の引き金となった原因を特定し、不安感を軽減するのに役立ちます。